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デジタル化

2025.5.7

設備保全DXの現状と展望

  • ミロクルカルテ
  • 設備保全

背景と重要性

日本の製造業では、設備の老朽化や人手不足といった課題が深刻化しています。経済産業省の「DXレポート」(2018年)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が停滞した場合、2025年以降に最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性を警告しました。特に設備保全の分野では、高経年化した設備の増加熟練技術者の高齢化により、従来のやり方では維持管理コストが増大しかねません。高度成長期から稼動する工場が保有する設備のうち半数以上が高経年設備となっており、それらに人的・金銭的リソースを割く必要性が高まっています。また、少子高齢化による保全人材の減少が懸念され、熟練技能の継承遅れは生産性低下につながると指摘されています。

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現状の課題

設備保全分野でのDX推進は十分とは言えません。保全作業の多くが手作業や属人的ノウハウに依存し、データ活用や自動化が進んでいない企業も少なくありません。紙の点検記録や経験頼みの故障対応が残っており、熟練者の引退によってノウハウが失われるリスクがあります。さらに、IT調査会社 IDC Japan の調査では、IoTを活用できている企業はわずか6〜7%にとどまり、多くの企業が PoC 段階から本格導入に至っていないと報告されています。そのため、故障予防や効率化のためのデータ活用が遅れ、計画外の設備停止が発生しやすいという課題が続いています。

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デジタル技術活用の取り組みと効果

課題に対応すべく、設備保全分野では IoT センサーや AI 解析を活用した予知保全の導入が注目されています。経済産業省は「AI導入ガイドブック(予知保全編)」を公開し、DX推進を後押ししています。予知保全によりダウンタイム短縮修理コスト削減が期待でき、経験や勘に頼った保全業務をデータに基づくプロセスへ移行させることで属人化解消にも寄与します。実際、経済産業省の報告書によると、AI 品質予兆検知システムを導入した製造ラインでは短時間の設備停止が45%削減し、年間60万本以上の生産増を達成した事例があります。

また、IoT を活用した遠隔監視や AR 技術によるリモート保守が拡大し、熟練技術者が現場にいなくても遠隔地から支援できる体制が整いつつあります。こうした取り組みは、コロナ禍による出張制限下でも保全現場の効率化と柔軟性を高める手段として評価されています。

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公的支援策と今後の展望

日本の公的機関や業界団体は、設備保全DX推進を目的に多様な支援策やガイドラインを提示しています。経済産業省による補助金・税制優遇措置、IPA の中小企業向け DX 事例集、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会の「メンテナンス実態調査」などがあり、企業が自社の保全DX計画を策定するうえで指針となります。今後は、データ蓄積による製造プロセス最適化や保全データの外販など新たな価値創出が進むと期待されます。公的セクターと民間企業が連携し、成功事例を共有することで、より多くの企業で設備保全DXが定着していくでしょう。

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未来のために今できること

1. 現場データの見える化を今すぐ始める
小規模でも構いません。点検結果をデジタル入力し、クラウドで一元管理する環境を用意することで、故障傾向や保全コストを把握しやすくなります。

2. PoCで“現場体験”を設計する
会議室で仕様を検討するだけでは、現場で本当に使えるかはわかりません。導入を検討するツールは、現場担当者に実際の業務フローで操作してもらい、使用感と負荷を評価しましょう。そのフィードバックを反映して改善することで、使いやすさと定着率が高まります。機能カタログやスペックだけを根拠に決定してしまうと、導入後に「現場が使わないシステム」になるリスクがある点には注意が必要です。

3. ベテランの知見を動画・写真で資産化
退職間近の熟練者が持つノウハウを、スマホ動画や写真で記録し、教育資料として蓄積しましょう。属人化を解消し、新人の早期戦力化に直結します。

4. 公的支援制度をフル活用
ものづくり補助金やDX投資促進税制など、国の支援策を活用することで、PoC費用やシステム導入費を抑えられます。

今、第一歩を踏み出すかどうかで、5年後の現場力に大きな差が生まれます。「いつかやる」ではなく「今すぐ始める」——それが、設備を止めずに未来の競争力を守る唯一の方法です。

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出典一覧(参考文献)

[2] 化学工学会東海支部「第26回 設備保全シンポジウム『人手不足に対応する設備保全の革新』」概要

保全人材の高齢化や属人化課題、デジタル技術活用の必要性を論じた資料。

[3] IDC Japan「2020年 国内IoT利用動向調査」プレスリリース

国内企業の IoT 活用率や PoC 停滞の実態を報告した調査。

[4] 経済産業省「製造業へのAI予知保全導入ガイドブック」(PDF)

予知保全導入の手順やメリットをまとめたガイドライン。

[5] 経済産業省「令和5年版ものづくり白書 第5章 第2節」(PDF)

AI 活用による保全システム導入事例を紹介し、定量的効果を報告。

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